唾液検査からわかる虫歯リスク:科学的根拠に基づく予防歯科
唾液検査からわかる虫歯リスク:科学的根拠に基づく予防歯科

はじめに
「なぜ私は虫歯になりやすいのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか。同じように歯を磨いているのに、虫歯になる人とならない人がいる。この差には、個人の虫歯リスクが関係しています。近年、予防歯科の分野で注目されているのが、唾液検査です。唾液検査により、虫歯菌の数、唾液の質と量、口腔内環境など、様々な情報が分かります。これらのデータから、個人の虫歯リスクを科学的に評価し、それに基づいた効果的な予防プログラムを組むことができます。画一的な予防法ではなく、自分に最適化された予防法を実践することで、虫歯を効果的に防げます。本記事では、唾液検査とは何か、何が分かるのか、検査結果の見方、そして検査結果に基づく予防法について詳しく解説します。
唾液検査とは
唾液検査は、唾液を採取して分析し、口腔内の状態や虫歯リスクを評価する検査です。
検査方法は簡単で、ガムを噛んで唾液を採取したり、専用の容器に唾液を出したりします。痛みはなく、数分で完了します。
採取した唾液を用いて、虫歯菌の数、唾液の量、唾液の質(緩衝能)、口腔内のpHなどを調べます。
検査結果から、個人の虫歯リスクを総合的に評価し、リスクに応じた予防プログラムを立てることができます。
唾液検査は、予防歯科に力を入れている歯科医院で受けられます。保険適用外の自費診療となることが多く、費用は3000円から1万円程度です。
唾液検査で分かること1:虫歯菌の数
唾液検査で最も重要な項目の一つが、虫歯菌の数です。
主にミュータンス菌とラクトバチラス菌という2種類の虫歯菌を測定します。
ミュータンス菌は、虫歯の発症に関わる主要な細菌です。糖分を分解して酸を産生し、歯を溶かします。ミュータンス菌が多いほど、虫歯になりやすいです。
ラクトバチラス菌は、虫歯の進行に関わる細菌です。既に虫歯がある場合や、口腔衛生状態が悪い場合に増加します。
これらの細菌の数を測定することで、現在の虫歯リスクと、口腔衛生状態を評価できます。
菌の数が多い場合は、丁寧な歯磨き、フロスの使用、定期的なクリーニング、フッ素の活用、キシリトール製品の使用などにより、菌の数を減らす努力が必要です。
唾液検査で分かること2:唾液の量
唾液の分泌量も重要な項目です。
唾液には、口腔内を洗浄する自浄作用、酸を中和する緩衝作用、歯を修復する再石灰化作用、細菌の繁殖を抑える抗菌作用があります。
唾液の分泌量が多いほど、これらの防御機能が強く働き、虫歯になりにくいです。
検査では、一定時間にどれだけの唾液が分泌されるかを測定します。通常、安静時唾液と刺激時唾液(ガムを噛んだときの唾液)の両方を測定します。
唾液の分泌量が少ない場合、口腔乾燥症の可能性があります。原因としては、薬の副作用、加齢、ストレス、シェーグレン症候群などの全身疾患が考えられます。
唾液が少ない人は、こまめに水を飲む、シュガーレスガムを噛む、人工唾液を使用するなどの対策が必要です。また、原因となる薬や疾患がある場合は、医師と相談します。
唾液検査で分かること3:唾液の質(緩衝能)
唾液の質、特に緩衝能も重要です。
緩衝能とは、酸を中和する力のことです。食事により口の中が酸性になったとき、唾液がどれだけ速く中性に戻せるかを示します。
緩衝能が高いほど、酸性の時間が短くなり、歯の脱灰を防げます。虫歯になりにくいです。
緩衝能が低い場合、酸性の状態が長く続き、虫歯のリスクが高まります。
緩衝能は、唾液のpHを測定したり、専用の試験紙を使用したりして評価します。
緩衝能が低い人は、食事の回数を減らす、ダラダラ食べをしない、食後に水で口をゆすぐ、アルカリ性の食品(チーズなど)を摂取するなどの対策が有効です。
唾液検査で分かること4:口腔内のpH
口腔内のpHも測定されることがあります。
通常、口腔内のpHは中性(約6.5から7.5)に保たれています。食事により一時的に酸性に傾きますが、唾液の作用で中性に戻ります。
常に酸性に傾いている場合、虫歯や酸蝕症のリスクが高いです。
口腔内のpHが低い原因としては、酸性の飲食物を頻繁に摂取する、唾液の緩衝能が低い、逆流性食道炎などが考えられます。
口腔内のpHを適切に保つには、酸性の飲食物を控える、食後に水で口をゆすぐ、唾液の分泌を促進するなどの対策が必要です。
検査結果の見方
唾液検査の結果は、通常、グラフや数値で示されます。
各項目について、正常範囲、注意が必要な範囲、リスクが高い範囲などが示されます。
総合的な虫歯リスクは、低リスク、中リスク、高リスクなどに分類されることが多いです。
リスクが高いからといって、必ず虫歯になるわけではありません。適切な予防策を講じることで、リスクを下げることができます。
逆に、リスクが低くても、油断せず予防を続けることが重要です。
歯科医師や歯科衛生士が、検査結果を分かりやすく説明し、個別の予防プログラムを提案してくれます。
リスクに応じた予防プログラム
唾液検査の結果に基づいて、個別化された予防プログラムを立てることができます。
虫歯菌が多い人は、キシリトール製品を積極的に使用する、定期的なクリーニングの頻度を増やす、抗菌性のマウスウォッシュを使用するなどの対策を強化します。
唾液の量が少ない人は、唾液の分泌を促進する対策を重点的に行います。
唾液の緩衝能が低い人は、食生活の改善に重点を置きます。
リスクが高い人は、3ヶ月に一度など、頻繁に定期検診を受け、早期発見に努めます。
リスクが低い人でも、6ヶ月に一度の定期検診とセルフケアの継続が必要です。
唾液検査を受けるべき人
どのような人が唾液検査を受けるべきでしょうか。
虫歯を繰り返す人は、検査を受けることで原因が分かります。丁寧に歯を磨いているのに虫歯になる場合、唾液や細菌の問題があるかもしれません。
これから矯正治療を始める人も、検査を受けると良いでしょう。矯正中は歯磨きが難しくなり、虫歯のリスクが高まります。事前にリスクを把握し、対策を講じることが重要です。
妊娠を予定している女性も、検査がおすすめです。妊娠中はホルモンの変化により、虫歯や歯周病のリスクが高まります。また、母親の虫歯菌が子どもに感染するため、妊娠前に菌を減らすことが望ましいです。
子どもや若い人も、早期にリスクを知ることで、生涯にわたる虫歯予防につながります。
唾液検査の限界
唾液検査は有用ですが、限界もあります。
唾液検査の結果は、その時点での状態を示すものです。生活習慣や口腔ケアの改善により、結果は変化します。
また、唾液検査だけでは、実際の虫歯の有無は分かりません。虫歯の有無を確認するには、視診やレントゲン検査が必要です。
唾液検査は、虫歯のリスクを予測するツールであり、確定診断ではありません。
検査結果が良くても、不適切なケアをすれば虫歯になります。逆に、結果が悪くても、適切なケアにより虫歯を防げます。
再検査の重要性
唾液検査は、1回だけでなく、定期的に受けることが推奨されます。
予防プログラムを実践した後、半年から1年後に再検査を受けることで、効果を確認できます。
虫歯菌の数が減った、唾液の分泌が増えたなど、改善が見られれば、予防が成功している証拠です。
改善が見られない場合は、予防法を見直す必要があります。
再検査により、モチベーションも維持できます。数値の改善が目に見えることで、予防への意欲が高まります。
唾液検査と他の検査の組み合わせ
唾液検査は、他の検査と組み合わせることで、より包括的な評価ができます。
レントゲン検査により、隠れ虫歯や骨の状態を確認します。
歯周ポケットの測定により、歯周病のリスクを評価します。
口腔内写真により、経時的な変化を記録します。
これらの検査を組み合わせることで、口腔全体の健康状態を把握し、総合的な予防プログラムを立てられます。
子どもの唾液検査
子どもも唾液検査を受けることができます。
特に、虫歯になりやすい子ども、虫歯を繰り返す子どもは、検査を受けることで原因が分かります。
子どもの唾液検査では、虫歯菌の数、唾液の量と質、食生活の影響などを評価します。
検査結果に基づいて、子どもに適した予防プログラムを立てます。おやつの選び方、フッ素の使用、仕上げ磨きの方法などを指導します。
親も一緒に検査を受けることで、家族全体での予防意識が高まります。
費用対効果
唾液検査は自費診療で、数千円から1万円程度の費用がかかります。
しかし、虫歯治療の費用と比べれば、予防の方がはるかに安く済みます。神経の治療や被せ物は、数万円かかります。
唾液検査により効果的な予防ができれば、長期的には大きな節約になります。
また、歯を失わず健康な状態を保つことは、生活の質にも大きく影響します。
まとめ
唾液検査により、虫歯菌の数、唾液の量と質、口腔内のpHなどが分かり、個人の虫歯リスクを科学的に評価できます。
検査結果に基づいて、自分に最適化された予防プログラムを実践することで、効果的に虫歯を防げます。
虫歯を繰り返す人、矯正治療を始める人、妊娠を予定している女性、子どもなど、多くの人にとって有用な検査です。
予防歯科に力を入れている歯科医院で唾液検査を受け、科学的根拠に基づいた虫歯予防を始めましょう。
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