睡眠とお口の健康の関係:良い睡眠が歯を守る理由
睡眠とお口の健康の関係:良い睡眠が歯を守る理由

はじめに
睡眠は健康の基本ですが、実は口腔の健康とも深い関係があります。「よく眠れない」「朝起きると口が乾いている」「歯ぎしりをしている」などの症状は、口腔の健康に悪影響を及ぼします。逆に、口腔の問題が睡眠の質を低下させることもあります。睡眠中は唾液の分泌が減少し、虫歯や歯周病のリスクが高まる時間帯です。また、睡眠時無呼吸症候群や歯ぎしりなど、睡眠に関連する問題が、歯や顎に深刻なダメージを与えることもあります。本記事では、睡眠と口腔健康の相互関係、睡眠中に起こる口腔の問題、そして良い睡眠と健康な口腔を保つための方法について解説します。
睡眠中の唾液分泌の減少
睡眠と口腔健康の関係で最も重要なのが、唾液の分泌量の変化です。
日中、私たちの口の中では1日に約1リットルから1.5リットルの唾液が分泌されています。唾液には、口腔内を洗浄する自浄作用、酸を中和する緩衝作用、歯を修復する再石灰化作用、細菌の繁殖を抑える抗菌作用があります。
しかし、睡眠中は体の活動が休止モードに入るため、唾液の分泌量が日中の約3分の1から10分の1程度まで減少します。この唾液不足により、口腔内の防御機能が著しく低下します。
唾液が減少すると、虫歯菌や歯周病菌が繁殖しやすくなります。特に、就寝前に歯磨きをせずに寝てしまうと、食べかすや糖分が口の中に残ったまま、細菌が爆発的に増殖します。
起床時の口腔内の細菌数は、就寝前の数十倍から数百倍にも増加するとされています。これが、朝起きたときに口がネバネバする、口臭が強いという現象の原因です。
口呼吸の問題
睡眠中の口呼吸は、口腔健康に深刻な影響を与えます。
本来、人間は鼻で呼吸するように設計されています。しかし、鼻詰まり、アレルギー性鼻炎、鼻中隔湾曲症などがあると、睡眠中に口呼吸になります。また、仰向けで寝ると舌が喉の奥に落ち込み、気道が狭くなって口呼吸になることもあります。
口呼吸により、口の中が乾燥します。ただでさえ少ない唾液がさらに蒸発してしまうのです。これにより、虫歯や歯周病のリスクが大幅に高まります。
起床時に喉が渇いている、口の中がカラカラに乾いている、喉が痛いという症状がある場合は、口呼吸をしている可能性が高いです。
口呼吸は、歯だけでなく全身の健康にも悪影響を与えます。免疫力の低下、風邪やインフルエンザのリスク増加、睡眠の質の低下などが起こります。
歯ぎしりと食いしばり
睡眠中の歯ぎしりや食いしばりも、口腔健康に大きな影響を与えます。
歯ぎしりは、医学用語でブラキシズムと呼ばれ、無意識に上下の歯を強くこすり合わせたり、噛みしめたりする動作です。統計によれば、成人の約10パーセントから20パーセントに見られるとされています。
歯ぎしりの主な原因は、ストレスや不安です。日中のストレスが、睡眠中に歯ぎしりとして現れます。また、噛み合わせの問題や、睡眠の質の低下も関係しています。
歯ぎしりにより、歯が削れたり欠けたりします。エナメル質が摩耗し、象牙質が露出すると、知覚過敏や虫歯のリスクが高まります。
また、顎関節症のリスクも増加します。顎の関節や筋肉に過度な負担がかかり、口を開けにくい、顎が痛い、カクカク音がするなどの症状が現れます。
歯ぎしりは本人が気づいていないことも多く、パートナーや家族に指摘されて初めて知ることもあります。朝起きたときに顎が疲れている、頭痛がするという症状があれば、歯ぎしりの可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まる病気で、口腔健康とも関連があります。
この病気では、気道が塞がれて呼吸が止まることが繰り返されます。肥満、顎が小さい、扁桃腺の肥大などが原因となります。
睡眠時無呼吸症候群の患者は、口呼吸になりやすく、口腔乾燥のリスクが高まります。また、睡眠の質が悪いため、免疫力が低下し、歯周病が悪化しやすくなります。
いびきをかく、日中の眠気が強い、朝起きたときに頭痛がする、夜中に何度も目が覚めるという症状がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
歯科医師は、口腔内の状態から睡眠時無呼吸症候群を疑うことがあります。例えば、舌が大きい、顎が小さい、喉が狭いなどの特徴が見られる場合です。
治療には、CPAP(持続陽圧呼吸療法)という機器を使用する方法や、マウスピースによる治療があります。歯科医院で作成するマウスピースは、下顎を前方に保持して気道を確保し、無呼吸を改善します。
睡眠不足と歯周病
睡眠不足は、歯周病のリスクを高めます。
十分な睡眠が取れないと、免疫機能が低下します。口腔内の免疫も弱まり、歯周病菌に対する抵抗力が落ちます。
研究によれば、1日の睡眠時間が6時間未満の人は、7時間から8時間眠る人に比べて、歯周病のリスクが高いという結果が出ています。
また、睡眠不足はストレスを増大させます。ストレスホルモンが増加すると、炎症反応が強くなり、歯周病が悪化しやすくなります。
睡眠不足により、口腔ケアがおろそかになることも問題です。疲れていると、歯磨きを省略したり、適当に済ませたりしがちです。
良い睡眠のための準備
良い睡眠を得るためには、就寝前の準備が重要です。
まず、就寝前の歯磨きは必須です。1日の中で最も重要な歯磨きタイミングと言えます。食べかすや歯垢をしっかり除去し、フロスも使って歯と歯の間もきれいにしましょう。
舌の清掃も効果的です。舌苔を除去することで、細菌の数を減らし、朝の口臭を軽減できます。
就寝前に少量の水を飲むことで、口腔内を潤し、唾液の分泌を促進できます。ただし、飲みすぎると夜中にトイレに起きることになるため、コップ半分程度が適量です。
寝室の環境も整えましょう。適度な温度と湿度を保ち、乾燥を防ぎます。特に冬場や冷暖房を使う季節は、加湿器を使用すると良いでしょう。
鼻呼吸を促す方法
口呼吸を改善し、鼻呼吸を促すための方法があります。
まず、鼻詰まりの原因を治療しましょう。アレルギー性鼻炎や鼻中隔湾曲症などがある場合は、耳鼻科を受診して適切な治療を受けます。
寝る姿勢も重要です。横向きに寝ると、気道が確保されやすく、口呼吸になりにくいです。仰向けで寝ると舌が喉の奥に落ち込みやすいため、注意が必要です。
枕の高さも関係します。高すぎると気道が曲がり、呼吸がしにくくなります。適切な高さの枕を選びましょう。
口呼吸防止用のテープを使用する方法もあります。医療用テープを唇に貼って、口が開かないようにします。ただし、鼻が完全に詰まっている状態では使用しないでください。
歯ぎしり対策
歯ぎしりを軽減するための対策もあります。
ストレス管理が最も重要です。リラクゼーション法、適度な運動、趣味の時間などで、ストレスを軽減しましょう。
就寝前のリラックスタイムを設けることも効果的です。読書、静かな音楽、ストレッチなど、心を落ち着ける活動を取り入れます。
カフェインやアルコールを就寝前に摂取しないことも大切です。これらは睡眠の質を低下させ、歯ぎしりを悪化させる可能性があります。
歯科医院で作成するナイトガード(マウスピース)は、歯ぎしりによる歯のダメージを防ぐ効果的な方法です。歯を保護し、顎関節への負担も軽減します。
睡眠の質を高める生活習慣
睡眠の質を高めることは、口腔健康にも良い影響を与えます。
規則正しい生活リズムを保ちましょう。毎日同じ時間に寝起きすることで、体内時計が整い、質の良い睡眠が得られます。
適度な運動は、睡眠の質を向上させます。ただし、就寝直前の激しい運動は避け、夕方までに済ませましょう。
バランスの取れた食事も重要です。特に、カルシウムやマグネシウムは、睡眠の質を高める効果があります。
寝る前のスマートフォンやパソコンの使用は控えましょう。ブルーライトが睡眠の質を低下させます。
定期的な歯科検診
良い睡眠と口腔健康を維持するには、定期的な歯科検診も重要です。
歯科医師は、歯ぎしりの跡や睡眠時無呼吸症候群の兆候を発見できます。早期に発見し、適切な対処をすることで、深刻な問題を予防できます。
3ヶ月から6ヶ月に一度の定期検診を受け、口腔の健康状態をチェックしてもらいましょう。
歯科衛生士によるクリーニングで、歯垢や歯石を除去し、清潔な口腔環境を保つことも大切です。
まとめ
睡眠中は唾液の分泌が減少し、虫歯や歯周病のリスクが高まります。口呼吸、歯ぎしり、睡眠時無呼吸症候群などの問題は、口腔健康に深刻な影響を与えます。
就寝前の丁寧な歯磨き、鼻呼吸の促進、ストレス管理、規則正しい生活リズムなどにより、睡眠の質と口腔健康の両方を改善できます。
良い睡眠は健康な歯を守り、健康な歯は良い睡眠を支えます。この好循環を作り出すことが、全身の健康につながります。

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