はじめに

夜中に子どもの寝室から「ギリギリ」という音が聞こえてきて、驚いた経験はありませんか。子どもの歯ぎしりは、多くの親御さんが心配する症状の一つです。「歯が削れてしまうのでは？」「何か病気のサイン？」「治療が必要？」など、様々な不安が頭をよぎるでしょう。実は、子どもの歯ぎしりは珍しいことではなく、多くの場合は成長の過程で自然に見られる現象です。しかし、場合によっては注意が必要なこともあります。本記事では、子どもの歯ぎしりの原因、問題となるケース、対処法、そして受診の目安について詳しく解説します。

子どもの歯ぎしりとは

歯ぎしりは、医学用語でブラキシズムと呼ばれ、無意識に上下の歯を強くこすり合わせたり、噛みしめたりする動作です。

子どもの歯ぎしりは非常に一般的で、統計によれば、子どもの約20パーセントから30パーセントに見られるとされています。特に1歳から6歳頃の幼児期に多く、年齢とともに減少していく傾向があります。

歯ぎしりには主に二つのタイプがあります。一つは睡眠中に起こるもので、最も一般的です。もう一つは日中に起こるもので、緊張したときや集中しているときに無意識に歯を食いしばることがあります。

音の大きさも様々で、隣の部屋まで聞こえるほど大きな音を立てる子もいれば、ほとんど音がしない子もいます。音の大きさと歯ぎしりの強さは必ずしも比例しません。

子どもの歯ぎしりの原因

子どもが歯ぎしりをする原因は、大人とは異なることが多く、いくつかの要因が考えられます。

最も一般的な原因は、歯の成長と発達です。乳歯が生えてくる時期、乳歯から永久歯に生え変わる時期など、歯や顎が成長する過程で、噛み合わせが常に変化します。この変化に適応しようとして、無意識に歯ぎしりをすることがあります。これは成長の一環で、多くの場合は心配いりません。

顎の発達も関係しています。子どもの顎は成長途中で、筋肉や骨格が発達していく過程で、歯ぎしりが起こることがあります。特に、永久歯が生えるスペースを作るための自然な反応として、歯ぎしりをすることもあります。

ストレスや不安も原因の一つです。環境の変化、新しい幼稚園や学校への入学、兄弟姉妹の誕生、引っ越しなど、子どもなりのストレスが歯ぎしりとして現れることがあります。

睡眠の質も関係します。睡眠が浅いときや、レム睡眠とノンレム睡眠の移行期に歯ぎしりが起こりやすいとされています。疲れすぎていたり、興奮していたりすると、睡眠の質が低下し、歯ぎしりが増えることがあります。

アレルギー性鼻炎や扁桃腺肥大などで鼻呼吸がしにくい場合、口呼吸になり、その結果として歯ぎしりが起こることもあります。

遺伝的な要因も指摘されています。親が歯ぎしりをする場合、子どもも歯ぎしりをする傾向があるという研究もあります。

子どもの歯ぎしりが問題ないケース

多くの場合、子どもの歯ぎしりは問題ありません。以下のような場合は、特に心配する必要はないとされています。

乳歯期の歯ぎしりは、ほとんどの場合問題ありません。乳歯はいずれ抜けて永久歯に生え変わるため、多少削れても大きな問題にはなりません。ただし、極端に削れている場合は別です。

痛みや不快感を訴えていない場合も、通常は問題ありません。歯ぎしりをしていても、本人が気づいていないことも多く、日常生活に支障がなければ様子を見て良いでしょう。

一時的な歯ぎしりも心配いりません。数週間から数ヶ月程度で自然に治まる場合が多いです。特に、歯が生える時期や生え変わりの時期は一時的に増えることがあります。

成長とともに減少傾向にある場合も問題ありません。5歳から6歳頃をピークに、その後徐々に減っていくパターンが一般的です。

注意が必要なケース

一方で、以下のような場合は歯科医師に相談した方が良いでしょう。

歯が極端に削れている場合は注意が必要です。歯の先端が平らになっている、歯が短くなっているなど、明らかに削れている場合は、歯の神経に影響が出る可能性があります。

顎の痛みや顔の筋肉の痛みを訴える場合も相談すべきです。朝起きたときに顎が痛い、頬が疲れているなどの症状があれば、歯ぎしりの影響が強い可能性があります。

頭痛を繰り返す場合も、歯ぎしりが原因かもしれません。特に朝起きたときの頭痛は、夜間の歯ぎしりや食いしばりと関連していることがあります。

永久歯が削れている場合は、早めの対処が必要です。永久歯は一生使う歯なので、削れてしまうと元に戻りません。

歯ぎしりが年齢とともに増加している、または小学校高学年になっても続いている場合は、一度歯科医師に診てもらいましょう。

睡眠の質が悪い、日中も眠そう、集中力がないなどの症状がある場合は、睡眠時無呼吸症候群などの可能性もあるため、医師に相談が必要です。

歯ぎしりが及ぼす影響

長期間、強い歯ぎしりが続くと、様々な影響が出る可能性があります。

最も直接的な影響は、歯の摩耗です。歯の表面のエナメル質が削れ、象牙質が露出すると、知覚過敏や虫歯のリスクが高まります。

顎関節症のリスクも増加します。顎の関節に過度な負担がかかり、口を開けにくい、顎がカクカク音がする、痛みがあるなどの症状が現れることがあります。

歯茎への影響もあります。強い力が歯にかかることで、歯茎が下がったり、歯がぐらついたりすることがあります。

頭痛や肩こりの原因になることもあります。歯ぎしりにより顔や首の筋肉が緊張し、これが頭痛や肩こりを引き起こします。

睡眠の質の低下も問題です。歯ぎしりにより深い睡眠が妨げられ、日中の眠気や集中力の低下につながることがあります。

家庭でできる対処法

子どもの歯ぎしりに対して、家庭でできる対処法をご紹介します。

まず、ストレスを軽減する環境を整えましょう。子どもの話をよく聞き、不安や心配事がないか確認します。リラックスできる時間を作り、就寝前は穏やかに過ごすことが大切です。

規則正しい生活リズムを保つことも重要です。毎日同じ時間に寝起きし、十分な睡眠時間を確保します。小学生なら9時間から10時間、幼児なら10時間から12時間の睡眠が推奨されます。

就寝前の習慣を見直しましょう。寝る前の激しい運動、テレビやゲームなどの刺激的な活動は避けます。読み聞かせや静かな音楽など、リラックスできる活動に切り替えます。

寝室の環境を整えることも効果的です。適度な温度と湿度を保ち、暗く静かな環境で眠れるようにします。

鼻呼吸を促すことも大切です。鼻詰まりがある場合は、耳鼻科を受診して治療を受けましょう。

硬いものを噛む習慣をつけるのも良いでしょう。日中、ガムを噛んだり、硬めの野菜を食べたりすることで、顎の筋肉の緊張が和らぐことがあります。ただし、虫歯予防のため、シュガーレスのガムを選びましょう。

歯科医院での対処法

家庭での対処で改善しない場合や、歯への影響が心配な場合は、歯科医院を受診しましょう。

歯科医師は、まず歯の状態、噛み合わせ、顎関節の状態などを詳しく診察します。必要に応じてレントゲン撮影を行い、歯や顎の骨の状態を確認します。

削れた歯の処置が必要な場合があります。知覚過敏がある場合は、薬を塗ったり、詰め物をしたりして保護します。

噛み合わせの調整が必要なこともあります。噛み合わせが原因で歯ぎしりが起こっている場合、調整により改善することがあります。

マウスピース（ナイトガード）の使用を検討することもあります。ただし、子どもの場合、顎が成長途中であるため、マウスピースの使用には慎重な判断が必要です。通常は、永久歯が生え揃い、歯ぎしりによる明らかな害がある場合に限って使用を検討します。

ストレスが原因と考えられる場合は、心理的なサポートが必要になることもあります。必要に応じて、小児科医や心理カウンセラーを紹介されることもあります。

睡眠時無呼吸症候群など、他の病気が疑われる場合は、専門医への紹介が行われます。

成長とともに改善するケースが多い

励みになる情報として、子どもの歯ぎしりの多くは成長とともに自然に改善します。

乳歯期の歯ぎしりは、永久歯に生え変わると自然に治まることが多いです。永久歯が生え揃う12歳から13歳頃には、ほとんどの子どもで歯ぎしりが消失または大幅に減少します。

ストレスが原因の場合も、環境に適応したり、成長に伴いストレスへの対処能力が向上したりすることで、改善していきます。

重要なのは、焦らず見守る姿勢です。過度に心配したり、子どもを叱ったりすると、かえってストレスになり、歯ぎしりが悪化することもあります。

まとめ

子どもの歯ぎしりは、多くの場合、成長の過程で見られる正常な現象です。乳歯期の歯ぎしりで、痛みや極端な削れがなければ、基本的には様子を見て問題ありません。

ただし、永久歯が削れている、顎の痛みがある、睡眠の質が悪いなどの症状がある場合は、歯科医師に相談しましょう。家庭では、ストレス軽減、規則正しい生活、良好な睡眠環境の整備などで対処できます。

焦らず、子どもの成長を見守りながら、必要に応じて専門家のサポートを受けることが大切です。

 

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