歯を失う原因は虫歯よりも歯周病?

歯を失う原因は虫歯よりも歯周病?

歯を失う原因は虫歯よりも歯周病?

はじめに

「歯を失う原因は虫歯よりも歯周病である」—この言葉を歯科医院で聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。日本人の多くは子どもの頃から虫歯予防については熱心に教育される一方で、歯周病については意外と知識が乏しいまま大人になることが少なくありません。

実際、厚生労働省の調査によると、40歳以上の日本人の約8割が何らかの歯周病に罹患しているとされています。そして、年齢が上がるにつれて歯の喪失原因において歯周病の割合が大きくなっていくことがわかっています。この文章では、虫歯と歯周病の違い、歯を失う主な原因、年齢層による喪失原因の変化、そして効果的な予防法について解説していきます。

虫歯と歯周病:その違いとメカニズム

虫歯(う蝕)とは

虫歯は、口腔内の細菌が糖分を代謝する際に産生する酸によって、歯の硬組織であるエナメル質や象牙質が溶かされる疾患です。主にミュータンス連鎖球菌という細菌が関与し、進行すると歯の内部に達して痛みを引き起こします。

虫歯は主に以下の4つの要素が揃うことで発生します:

  1. 虫歯の原因となる細菌の存在
  2. 細菌のエサとなる糖質(主に砂糖)
  3. 虫歯に弱い歯質
  4. 時間(上記の要素が長時間作用すること)

虫歯の進行は一般的に歯の表面から内部に向かって進みます。初期の段階では自覚症状がほとんどなく、進行して神経に近づくにつれて冷たいものや甘いものがしみるようになり、さらに進行すると自発痛(何もしていない時の痛み)が生じます。

歯周病とは

一方、歯周病は歯を支える組織(歯肉、歯根膜、セメント質、歯槽骨)に炎症や破壊が生じる疾患です。歯と歯肉の間に溜まった歯垢(プラーク)中の細菌が原因となり、初期段階の歯肉炎から、より深刻な歯周炎へと進行していきます。

歯周病の主な原因菌としては、ポルフィロモナス・ジンジバリスやタンネレラ・フォーサイシスなどのグラム陰性嫌気性菌が知られています。これらの細菌は歯周ポケット(歯と歯肉の間の溝)に潜み、慢性的な炎症を引き起こします。

歯周病の進行段階は以下のようになります:

  1. 歯肉炎:歯肉のみに炎症が起きる段階。この段階では適切なケアにより完全に回復可能。
  2. 軽度歯周炎:炎症が歯肉から歯を支える骨にまで及び始める段階。
  3. 中等度歯周炎:歯を支える骨がさらに吸収され、歯がやや動揺し始める段階。
  4. 重度歯周炎:骨吸収が進行し、歯の動揺が著しくなり、最終的には歯が抜け落ちる段階。

歯周病の特徴的な点は、進行するまでほとんど痛みを感じないことです。そのため「サイレント・ディジーズ(静かなる病気)」とも呼ばれ、気づいた時には既に重症化していることが少なくありません。

歯を失う主な原因:統計から見る実態

年齢層による喪失原因の変化

厚生労働省の歯科疾患実態調査や日本歯科医師会の報告によると、歯を失う原因は年齢によって大きく異なることがわかっています。

20代〜30代:この年齢層では虫歯が歯の喪失原因の約70%を占めています。若年層では甘いものの摂取頻度が高いことや、進学や就職による生活環境の変化で歯科受診が疎かになることが要因として考えられます。

40代〜50代:中年層になると、虫歯と歯周病が原因となる割合がほぼ同程度になります。この年代は仕事のストレスや生活習慣の乱れが歯周病のリスクを高めるとともに、若年期からの虫歯治療歴のある歯が経年劣化することも影響しています。

60代以上:高齢者では歯周病が歯の喪失原因の約70%を占めるようになります。長年にわたる歯周病の進行に加え、全身疾患や服薬による口腔環境の変化、加齢に伴う免疫力の低下なども要因となっています。

これらの統計から、若いうちは虫歯が主な原因であっても、年齢を重ねるにつれて歯周病が歯の喪失の主要因となることがわかります。

なぜ歯周病は歯の喪失につながりやすいのか

歯周病が高齢者の歯の喪失において大きな割合を占める理由として、以下の要因が考えられます:

  1. 進行の潜在性:歯周病は自覚症状が乏しく、気づいた時には既に進行していることが多い。一方、虫歯は比較的早期から痛みなどの症状があり、治療のタイミングが早くなりやすい。
  2. 広範囲の影響:歯周病は口腔内全体に広がりやすく、多数の歯に同時に影響を与えることがある。虫歯は通常、個々の歯に限局して発生する。
  3. 不可逆的な組織破壊:歯周病により一度吸収された歯槽骨は、通常の治療では元の状態に戻らない。骨の支えを失った歯は長期的に維持が難しくなる。
  4. 全身疾患との関連:歯周病は糖尿病や心疾患などの全身疾患と相互に影響し合い、高齢者では複合的な健康問題として悪化することがある。

歯周病の予防と対策

日常のセルフケア

歯周病を予防するための基本は、毎日の適切な口腔ケアです。以下のポイントが重要です:

  1. 正しい歯磨き:歯と歯肉の境目(歯頸部)を意識した丁寧な歯磨きが必要です。力を入れすぎず、小さく細かい動きで磨くことがポイントです。
  2. 歯間部の清掃:歯ブラシだけでは届かない歯と歯の間は、フロスや歯間ブラシを使用して清掃します。特に歯周病菌は歯間部に潜みやすいため、この部分のケアは非常に重要です。
  3. 舌の清掃:舌の表面には多くの細菌が付着しています。舌クリーナーなどを使用して舌苔(舌の表面に付着する白っぽい汚れ)を除去することも効果的です。
  4. 洗口液の使用:殺菌作用のある洗口液を使用することで、歯ブラシでは届きにくい部分の細菌を減らすことができます。

定期的な歯科検診とプロフェッショナルケア

歯周病は初期段階では自覚症状がほとんどないため、定期的な歯科検診が非常に重要です。一般的には、6ヶ月に1回程度の検診が推奨されています。

歯科医院では以下のようなプロフェッショナルケアを受けることができます:

  1. スケーリング:歯石や歯垢を除去する処置です。歯石は硬く固まったプラークであり、自宅でのケアでは除去できません。
  2. ルートプレーニング:歯周ポケットの中や歯根表面の清掃を行う処置です。より深い部分の歯石や細菌を除去します。
  3. 歯周ポケット内洗浄:歯周ポケット内を薬液で洗浄し、細菌の増殖を抑制します。

生活習慣の改善

歯周病の予防には口腔ケアだけでなく、全身の健康維持も重要です。以下の生活習慣の改善が効果的です:

  1. バランスの良い食事:ビタミンCやカルシウムなど、歯肉や歯の健康に必要な栄養素を十分に摂取します。
  2. 禁煙:喫煙は歯周病のリスクを著しく高めます。タバコに含まれる有害物質は歯肉の血流を悪化させ、免疫機能を低下させます。
  3. ストレス管理:慢性的なストレスは免疫機能を低下させ、歯周病のリスクを高めます。適切なストレス管理を心がけましょう。
  4. 十分な睡眠:質の良い睡眠は免疫力の維持に欠かせません。また、睡眠中は唾液の分泌量が減少するため、寝る前の口腔ケアは特に丁寧に行いましょう。

歯周病と全身疾患の関連

近年の研究により、歯周病は口腔内の問題にとどまらず、全身の健康にも影響を及ぼすことが明らかになっています。特に以下の疾患との関連が指摘されています:

  1. 糖尿病:歯周病と糖尿病は双方向に悪影響を及ぼし合います。糖尿病があると歯周病が悪化しやすく、また歯周病があると血糖コントロールが困難になることがあります。
  2. 心血管疾患:歯周病菌や炎症性物質が血流に乗って全身を巡り、動脈硬化や心筋梗塞のリスクを高める可能性があります。
  3. 誤嚥性肺炎:口腔内の細菌が誤って肺に入ることで起こる肺炎のリスクが高まります。特に高齢者では注意が必要です。
  4. 早産・低体重児出産:妊婦の歯周病が胎盤を通じて胎児に影響を与え、早産や低体重児出産のリスクを高める可能性があります。

まとめ:総合的な口腔ケアの重要性

虫歯と歯周病、どちらも歯を失う重大な原因ですが、年齢とともに歯周病の影響がより大きくなることは明らかです。特に中高年以降は、歯周病対策を意識した口腔ケアが非常に重要になります。

しかし、虫歯と歯周病は完全に別々の疾患ではなく、共通のリスク要因(不適切な口腔ケア、糖分の過剰摂取など)を持っています。そのため、理想的な口腔ケアは両方の予防を視野に入れた総合的なアプローチであるべきです。

虫歯予防のためのフッ化物利用や糖分摂取の制限と、歯周病予防のための歯間部清掃や定期的な歯科検診を組み合わせることで、生涯にわたって健康な歯を維持することが可能になります。

また、口腔の健康は全身の健康と密接に関連していることを忘れてはいけません。口腔ケアは単に歯を守るためだけでなく、全身の健康を維持するための重要な健康習慣の一つとして位置づけるべきでしょう。

歯を失う主な原因が年齢とともに虫歯から歯周病へとシフトしていくことを理解し、それぞれのライフステージに合わせた適切な口腔ケアを実践することが、健康な歯を長く維持するための鍵となります。

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